待ち人

「やはりここにいたか、千鳥」
「松風……」
 見慣れた緑の髪、仏頂面。まあ仏頂面なのは、俺も人のことは言えない。俺達が表情を変える相手は、唯一人と決まっているから。
「また夕日を見ていたのか?」
 俺は暇があれば時々ここに来る。夕日が綺麗に見える、秘密の場所とでも言おうか。ここを知っているのは、俺と松風だけ。そう、あの御方さえも知らない。
「ああ、ここにいると落ち着くんだ」
 少しずつ沈んでいく太陽。何度見ても綺麗な光景だ。
「……何故、由利様にも秘密にしているんだ?」
 こんなにいい場所なんだから、知ればきっと由利様も喜んでくれる。そういう意味だろう。それでも俺は松風に口止めまでして、あの御方にまだ教えていない。
 ――これは、松風も知らないこと。
「……待ってるんだ」
 ここの景色は確かに美しい。最初はすぐに由利様にもお見せしたいと思った。だが、俺は一度だけ見たことがある。雪が降った次の日、白の世界が夕焼けに染まる瞬間。
 すごく、キレイだった。
「由利様に見せるためには、ただの“キレイ”じゃ駄目だ」
 いつか、由利様にお魅せしたい。いつもの夕日じゃなくて、特別美しい夕焼けを。

「あの夕焼けを、待ってるんだ」

 あなたに捧げる、とっておきの贈り物。

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