似合い

 久しぶりの雲ひとつない青空に、これでようやく洗濯物が干せると笑った。それに「手伝います」と同じく笑ったのは、自分がいない間、代わりにこの家の家事をやってくれていたという新たな居候。今まで家事を苦だと思ったことはなかったが、手伝ってくれる人間がいるのはやはり嬉しいものだ。
 道場から師範代一人と門弟一人の声が響く中、二人で洗い終わった着物を干す。小さな呟きが聞こえたのは、その時だった。
「人斬り抜刀斎……」
 あまりにも聞き慣れた……しかし目の前の人物が言うにはあまりにも聞き慣れない言葉に、思わず動きを止める。
「……どうしたのでござるか? 突然」
 聞きたくないわけではない。否定したいわけでもない。ただ、できるなら語りたくなかったその名前。別に隠し通そうとしていたことでもないが、知られた時、怖がらせてしまうのが申し訳なかった。
 しかし……
「いえ……剣心さん、全然そんな風に見えないなぁと思って」
「……はは、確かによく驚かれる」
 果たせるかな、と言うべきか。この新たな仲間も、怖がるなんてことはしなかった。どこか確信している自分は、とても卑怯で、愚かだろうけれど。
「……似合ってます」
「!」
 まるでその愚かな考えを見抜いたかのように、呟かれた言葉。無意識に恐る恐る目を向ければ、
「似合ってますよ」
 再び。今度は、はっきりと。でもその笑顔が、その言葉にどうしても不釣合いだったから。
「……人斬り抜刀斎、が?」
 自らその名を、口にした。
「あっ……ち、違います違います! ごめんなさい!」
 どうやら本当に意味が違っていたらしい。慌てたように両手をブンブン振って否定してから、不釣り合いでなくなった笑顔を、改めて向けてくれた。

 ――洗濯物干してる姿が、です。

 驚きよりも、安堵よりも、嬉しさよりも先に、ただただ、おかしくて。しばらく笑っていたら、どうやら少しだけ怒らせてしまったようだった。

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